3人でお山
夫がが突如姿を消して2か月が過ぎた。
まだまだ「今日パパは?」と言われるのが嫌で、近所、保育園の友達ママには顔を合わせられないでいる。夫は、『イクメン、よき父、夫』を演じるのが上手かったから。 私もその演技に騙されていたくらいだから。
誰ともLINEをせず、お誘いがあっても「またね」と。
小学校の土曜授業参観も、みいなとあいこにはかわいそうだけれど、行かなかった。 いや、行けなかった。
私たち夫婦は、出かけるのが好きだった。子供たちを必ず公園や、レジャー連れて行っていた。特に夫が子供たちが赤ちゃんの頃から連れて行っていたのは、山だった。
あかちゃんを背負って登れる背負子にお座りができるようになったころからみいなとあいこをのせ、神奈川や埼玉、広島でもハイキングに出かけた。子供たちを背負って登ると、いろんな人が声をかけてくれる、『大変だけど、いいね、頑張ってね』
夫はそれが誇らしかった。
【夫が愛用していた背負子でご機嫌♬2歳のあいこ】
みいなとあいこがしっかり歩けるようになってからは、歩ける距離を長くし、大人でも疲れた!というような山でも連れていき、子供たちと楽しみながら健脚を鍛えた。
正月登山、春山、GW、紅葉…みいなもあいこも、季節ごとに「パパにお山に連れて行ってもらう」のを楽しみにしていた。私も夫の趣味に合わせ、早朝からの弁当作りなど、この家族のイベントを大切にしていた。
【家族を捨てて出ていく2か月前に出かけた最後の山。この時、これが家族で出かける最後だとわかっていたのは夫だけだった。】
夫は勝手に家族を捨てて出て行った。理由が私の人格に問題があるとか、愛着障害だとか、本当は不倫しているのを隠すためだとか、広島から出るとき私のすべてを奪って丸裸にして裏切ったとか・・・もう、どうでもよくなっていた。理由は何でもいい、
私自身、何一つ間違ったことはしていない。その事実だけで十分だった。
だけど、夫がいたから経験できたことも多い。その一つが「お山」だ。
夫が消えたのは事実。もうどうしようもできない。でも、私はそれによって子供たちの将来が閉ざされたり、世界が狭まるのは絶対に避けたかった。そうなってしまうと、逃げたもん勝ち、捨てられて惨め、になってしまうから。
みいなとあいこには、今まで考えていた通りの色々な経験をさせてあげたい。
私は夫が残していった関東のハイキングの本を片手に、もう片手にスマホをもち、埼玉県飯能市のとある駅にみいなとあいこと降り立った。
山など一人で登ったこともない。
でも、連れて行ってやりたい、それだけだった。
2時間ほどなだらかな丘陵を歩き、展望台、そして、お目当てのムーミンをイメージしたこども園に到着。きのこの家と称した子供の遊び場で、夢中になって他の子供たちと遊ぶみいなとあいこ。お弁当を後回しにして遊んだ。
おにぎりを食べ、別の建物に入るとき、みいなが言った。
『ママ、3人で楽しいね♪』
嬉しかった。
パパがいなくても、ママが慣れない山に頑張って連れて行ったこと、わかってくれたのかな。
帰りも、『楽しかったね』とみいなとあいこと口々に言いながら帰った。
その日の夜、久しぶりに泣いた。
なんの涙だろう。